一期一会2018年12月04日
ルーマニア。ブカレスト。11月14日、18時30分。外は大雨。中はとても暖かく、明るくて素晴らしい雰囲気。ワインを片手に持ちながら楽しそうに会話をする美女たちに囲まれている。
なぜこんなところにいるのかはまだ自覚していない。とにかく、スピーチの準備で忙しい。心臓が胸から飛び出すほどドキドキしている。今夜はブカレストの有名人がこのイベントのために集まるらしい。
なんのイベント? 写真展。 ん?写真展? はい。写真展。 写真家ではない私が人生初の写真展をブカレストで開催することになっている。ブカレストの中心にある「ポイント」という素晴らしい場所で!五感を疑う。これは現実ではない。これは間違いなく、夢の世界。Alice in wonderland だ! 心臓がドラムのようにドキドキ、ドキドキ。19年間も日本で生活している私が、ルーマニア語でスピーチをしたことが一度もない。ここまで緊張したこともない。とにかくドキドキ。 今夜来るのは芸術家、写真家とインテリばかり。想像以上に緊張している。マイクを握ると手が震える。 あっ!もうすぐ19時。ゲストたちが展示ホールに入り出した。ドキドキ。 「先生!」・・・
「先生!」・・・ 「おおおおい!先生!」 と女の子の声が聞こえる。資料に集中していた私が目を上げると、アナさんが私に向かって 「先生!」 と読んでいる。 あのジドヴェイ王国の王女のアナさん。 ん?私が?先生・・・? 大きな違和感を感じる。 「ヴラド・エフテニエさんを紹介したいの!」。 写真家・建築家・作家のヴラド・エフテニエさんがここに!私の写真がヴラド・エフテニエに見られるなんて、恥ずかしいすぎる。どうしよう?緊張しすぎて、言葉が上手くでず、思わずお辞儀してしまう自分にびっくり。 ルーマニア人の前でお辞儀か...日本人になったな、自分が。しかし、エフテニエさんは上品なスマイルをしながら、ジェントルマンらしく私に向かって、日本人以上に正しい形のお辞儀をする。自然的な、エレガントなお辞儀。 「実は、日本の文化の中で、お辞儀の文化が一番好きです。人間関係の一番エレガントな部分を表現するのはお辞儀だと思います。日本人がお互いに毎日お辞儀するなんて、素晴らしいですね。尊敬するべき国民です。ダニエルさんが一番最初にハンドシェイクではなく、お辞儀をしてくれて光栄です」とエフテニエさんがコメントする。 19年間も日本に住んでいた私がルーマニア人に日本の文化を教えたいと思っているが、逆に日本に行ったことのないルーマニア人に教えられる。複雑な気持ちだけど、言葉で上手く説明できない幸せも感じる。ちゃんとした文化のある民族は多民族の文化も受け止め、尊重するのだ。素晴らしいことだ。 さて、スピーチ始めないと行けない時間だ。
人生初の写真展のテーマは「一期一会」。日本の一番好きな四字熟語。 この四字熟語の裏にある哲学を説明しながら、展示されている写真のストーリーを語ろうと。 ゲストさんの数は約50名。
バックグラウンドに私が選んだ曲が流れている。雰囲気は中々いけている。 展示会の開催を可能にしてくれた、イオアナ・マリア・アルデレアンさんが開会の挨拶をする。 スピーチ開始。
一期一会の話をする。 写真のストーリーを語る。 日本国内のワイン業界の話も。 ワインを語るとみんなが真面目に聞いている。ワインの力は魔法のようだ。 スピーチ後は、もちろん、試飲会。ジドヴェイの美味しいワインを飲みながら、皆さんとの会話を楽しむ。上品な方ばかり。笑いの多い空間だ。
文書長ければ長いほど読んでくれる人の数が減るのではないかと心配なので、写真展のストーリーの続きを写真に語ってもらおう。よかったらぜひ、ご覧ください。 全てを可能にしてくれたのはこの4人。ルーマニアワイン業界の未来を担う、若くて情熱の溢れるワイン・アンバサダー達。
この日に向けて頑張っていた方々のおかげで、写真展を無事に開くことができたが、私は写真家ではない。撮影のスキルも初心者レベル。私の写真は、ワインへの愛とワインを作っている人々へのリスペクトの一つの表現に過ぎない。そのメッセージが見事にこの4人に伝わり、写真展を開いてくれた訳だ。 しかし、ここで満足するわけには行かない。ここはスタート地点だ。これからはルーマニアワインインポーターとしての役割をしっかり果たすために、さらなるステップアップを目指し、頑張るしかない。 今回のイベントで多くの素晴らしい方々と出会った。心もマインドも広い方々ばかりだった。彼らと会話すると、自分がどれだけ小さいか自覚した。彼らの前で謹んで頭を下げるしかない。こんなに素晴らしい体験をさせていただき、感謝の言葉もない。皆さんと一緒に少しでも時間を過ごせたことは本物の幸せだと思う。人生の全ては一期一会だな。 「そもそも茶湯の交会は一期一会といひて、たとえば、幾度おなじ主客交会するとも、今日の会にふたたびかへらざる事を思へば、実に我一世一度の会なり、去るにより、主人は万事に心を配り、いささかも粗末なきやう実意を以て交わるべきなり、是を一期一会といふ」(井伊直弼)。
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