2017年6月のワイン旅
Photo Album 毎年日本人のお客様と一緒に、ルーマニアのトランシルヴァニア地方、タルナーヴェ産地に位置するジドヴェイワイナリーを訪問させていただいております。1年中でもっとも楽しい旅で、毎年この時期を楽しみにしております。タルナーヴェ産地のテロワール、畑と人々の話を始めると褒め言葉しか出ませんので、褒めすぎのではないかと疑われることがあるでしょう。また、いくら言葉で褒めても、どれだけ素晴らしい産地であるかは、現地に行かないと分からないと思います。画像を通して皆様にツアー日記をお届けしたいと思います。少しでも、ジドヴェイの素晴らしさが皆様に届けば幸いです。
1日目 / 6月17日 / ルーマニアへの移動
家を出る前に、ディオくんにさようならの挨拶をしました。ディオくんは初めて我が家に来てくれたとき、一番最初に遊んだおもちゃがワインのコルクでした。ワインのコルクは確かに家中のあちらこちらにありますが、最初にコルクに目をつけたことは運命的なことだと思い、ギリシャ神話のワイン神「ディオニソス」に由来する「ディオ」という名前にしました。未だに、コルクと遊んでくれていますので、ワイン飲みはやめられません。
家を出て、無事に成田空港へ到着しました。今回のツアーメンバーは、自分を含めて、6名。
12時間のフライト後、イスタンブールに到着しました。ルーマニアへの直行便がないため、今回はイスタンブールを経由しました。ブカレスト行きのフライトまで2時間程の待ち時間がありましたので、皆んなでコーヒーを飲むことにしました。カフェは混んでいなかったので、トルコ人の女子スタッフがいつもより親しく、無料のスマイルを大量にくれました。おかげで、今回の旅をとても良い気分でスタートできました。
2日目 / 6月18日 / ブカレスト
12時間のフライト後、イスタンブールに到着しました。ルーマニアへの直行便がないため、今回はイスタンブールを経由しました。ブカレスト行きのフライトまで2時間程の待ち時間がありましたので、皆んなでコーヒーを飲むことにしました。カフェは混んでいなかったので、トルコ人の女子スタッフがいつもより親しく、無料のスマイルを大量にくれました。おかげで、今回の旅をとても良い気分でスタートできました。
イスタンブールからブカレストまでのフライトは約1時間で、あっという間にブカレストのヘンリ・コアンダ空港に到着しました(ヘンリ・コアンダはルーマニアの有名なエンジニアと発明家で、ジェットエンジンとジェット機を発明した人です)。ジドヴェイのイオアナさんとドライバーのドゥミトルさんが大きなスマイルで出迎えてくれました。久しぶりの帰国でしたので既にワクワクしていましたが、彼らの元気な笑顔を見て、さらに気分が盛り上がりました。皆さんの荷物をマイクロバスに詰めて、ラマダホテルに向かいました。嬉しいことにラマダホテルでアーリーチェックインができ、皆さんそれぞれが部屋に入って、2時間ぐらいゆっくりとリフレッシュできました。不思議なことに、部屋の中にジドヴェイワインの広告が置いてありました。しかも、大好きなミステリウムロゼ!
12時にホテルから出て、イオアナさんが予約してくれた『ゼクセ(Zexe)』というレストランへ向かいました。ルーマニア料理のレストランで、使われている材料も全てルーマニア産です。明るくて、暖かい雰囲気のお店でした。
嬉しいことにジドヴェイのスパークリングもメニューに載っていました。早速1本注文し、坂本さんのエレガントなサーヴを楽しみました。光沢のあるサーモンピンクで、泡立ちが力強く、きめ細やか。香りはラズベリーやチェリーを感じさせ、ピンクペッパーのニュアンスも若干感じました。フレッシュで、果実もたっぷりで、心地よく、とてもチャーミングなスパークリングワインです。現在は日本にまだ輸入していませんが、今年の秋ごろ入荷する予定です。
昼食後、ドゥミトルさんのマイクロバスに乗り、ブライアン・アダムスとルチアーノ・パヴァロッティの「オー・ソーレ・ミオー」を聴きながら、ルーマニアの国立歴史博物館に向かいました。数時間をかけて、ルーマニアの歴史をたっぷり学ばせていただきました。『ルーマニア』は、ローマ人の国という意味があります。メインに展示されていたのは『トラヤヌスの記念柱』です。ローマ皇帝のトラヤヌスはダキア王国(昔のルーマニア)の金とワインへの関心を高め、101年からダキア戦争を始めました。2次に渡る戦争でしたが、106年にダキア王国がローマ帝国の属州となりました。ダキア王国には金が豊富にあり、ワイン産業も充実していました。当時のダキア人とローマに兵士がラテン系の言語を話すルーマニア人の祖となりました。ルーマニアという国の由来をより深く理解するためには国立歴史博物館がとても良いスタートですね!
皆さんに夢中になってルーマニアの歴史を学んでいただいた後、ブカレストのおしゃれなパンとワインのお店にて食事をしました。50種類以上のルーマニア産のワインをグラスで飲めるので、ルーマニアワイン勉強には最高のお店です。メニューをよく見ると、日本にも輸入されている生産者ばかりで、嬉しかったです。店員さんもとてもいい感じでした。このお店のバーカウンター担当のお兄さんは有名なソムリエだそうです。
3日目 / 6月19日 / ジドヴェイへの移動
ジドヴェイへの移動は物語のようなものでした。運良く、南カルパチア山脈を超える「トランスファガラシャン」という道路がちょうど2日前に夏季開通されましたので、トランスファガラシャンのルートで山を超えることにしました。8時間以上のドライブでしたが、天気にも恵まれ、ほぼ完璧な体験でした。
最初のストップはアルジェシュ聖堂でした。アルジェシュ聖堂にはルーマニア王家の墓が置かれています。外壁の彫刻と内部の壁画が美しく、毎年多くの観光客が訪れています。アルジェシュ聖堂のマノレ親方の伝説も有名です。マノレ親方の伝説には「犠牲」の重要性が描かれ、とても啓発的なメッセージを持ちます。キリスト教以前のモチーフを使用することが多く、なんとなくアジア的な雰囲気も感じます。 アルジェシュ聖堂の次に、アルジェシュ渓谷中のドライブを楽しみ、ポエナリ要塞付近で休憩をとりました。ポエナリ要塞は本物の「ドラキュラ城」で、ドラキュラのモデルになったヴラド・ツェペシュ公の命令によって建てられました。ポエナリ要塞の標高は2033mで、しっかり見上げないと見逃してしまいます。
次に『ヴィドラール』ダムで休憩をとりました。
ヴィドラール湖の次に息を呑むほどの素晴らしい景色が広がりました。日本の車のCMにも登場しています!!!
4日目 / 6月20日 / タウニワイナリーとブラージュワイナリー
ジドヴェイワインのラベルに描かれているお城が目の前に!!!本物のお城で泊まれるなんて夢みたいでした。時差の影響をまだ感じていたため、朝の3時ごろに目覚めてしまいましたが、気持ちよく散歩うし、チェタテア・デ・バルタ村の風景を楽しみました。
ジドヴェイワイナリーはタルナーヴェ産地に位置します。タルナーヴェ産地は2つの川がある事により誕生し、産地の特徴がはっきりしています。葡萄の生育期間の気温は日中30~35度で、夜は15度下がるため昼夜の気温差は約15度です。通常、糖度が上がると酸度は下がるが、この産地の特徴は、糖度の割に酸度は高い方です。葡萄本来が持っているアロマをワインにいかし、ジドヴェイらしい特別なワインを楽しむ事ができます。
朝食後に、畑責任者のイオン・マルジネアヌ(Ion Marginean)氏とマリン・ククラ(Marin Cucura)氏と一緒にジドヴェイ社が所有しているタウニ(Tauni)ワイナリーへ向かいました。15分間ぐらいオフロード専用の車に乗り、とても楽しいドライブでした。ある丘を越えると、いきなり葡萄畑が現れました。これは想像を超える広さでした。とにかく地平線まで葡萄畑が続き、言葉を失うほどの美しさでした。
ジドヴェイ社は2500ヘクタール(東京ドームの約500個分!)の葡萄畑を所有し、ルーマニア最大の葡萄園です。また、一人のオーナーが所有する畑としては、ヨーロッパ最大の広さです。スペインにはジドヴェイより広い畑を所有しているワイナリーはありますが、複数オーナーの畑だそうです。見るポイントは圧倒的な広さだけではありません。畑の管理が細かいところまで徹底的に行われ、想像を超える労力をかけていることが分かります。畑がここまで広いにもかかわらず、葡萄へのケアーは小規模ワイナリーに負けません。
重要なポイントはもう一つあります。ここまでの規模になると、主に経済的な理由で、多くの企業は生産性や利便性を追求してしまうことがありますが、ジドヴェイの場合信じられないほど細部まで畑を管理しています。土壌を徹底的に分析し、それぞれの土壌にあった葡萄品種が育てられています。その結果、合計面積は広いにもかかわらず、数十メーター歩けば、違う葡萄品種に出会います。斜面、土壌、空気の流れ、標高などを慎重に考慮した上で、どのような葡萄品種を植えるのかが決められています。標高や土壌が少しでも変われば、それぞれの条件にあった葡萄品種が植えられています。化学肥料などを可能なかぎり使わずに、健康な葡萄を育つための取り組みは実に素晴らしいです。
また、畑は広いが、1ヘクタールあたりの平均生産量は7トン〜9トンまでで、小規模の世界の有名な大シャトーと変わらない基準です。さらに、DOC以上のワインの場合、フリーランしか使用されず、日本市場価格1000円のワインでも、フリーランになります。日本国内では、ジドヴェイ以外の1000円のフリーランが手に入ることはないでしょう。
最初に訪問したのはタウニ(Tauni)ワイナリーでした。タウニワイナリーのワインメーカーであるフロリン・フラツィーラ(Florin Fratila)氏がワイナリーの説明をしてくれました。タウニワイナリーはヨーロッパ最大の重力方式ワイナリーで、世界最先端の技術を備えています。タンクの温度管理は全てコンピューターによって管理されています。ジドヴェイ社の品質管理基準に合わせたオーダーメイドのタンクしか使用されず、タンクの壁の断熱性は業界の基準をはるかに超えています。ワインへの温度変化のストレスが一切ありません。また、ワイナリーが700ヘクタールにも及ぶ畑の真ん中に位置します。収穫時期に葡萄を畑からワイナリーまで運ぶ時間を長くても20分以内に抑えられることができるため、葡萄が酸化することなく、とても新鮮な果汁を摂ることができます。葡萄が新鮮な場合、必要な酸化防止剤の量も圧倒的に減り、直接葡萄に酸化防止剤を撒くこともありません。更に、葡萄の収穫を基本的に夜間に行います。夜間の温度は低く、葡萄が大変酸化しにくいため、大変フレッシュな果汁が得られます。
マセラシオンタンク、発酵のタンクや保管用のタンクの数が多く、一つの畑に一つのタンクが使われています。例えば、同じ葡萄品種であったとしても畑が違うだけで、味が違う場合もあるので、タンクを可能なかぎり分けて使っています。ここまでの厳格な管理は見たことありません。
ステンレスタンクを置いている所に、屋根も壁もありません。最初は屋根をつける予定でしたが、何故か他の室内の醸造所よりも一つのタンク当たりの使用電力が少ないため、当面屋根や壁を付けないことになりました。開放的で、気持ちが良かったです。
次にブラージュ村のブラージュ(Blaj)ワイナリーを訪問しました。ブラージュ村のワイン以外の名産物は蜂蜜です。特にブラージュのアカシア蜂蜜と菩提樹蜂蜜が有名です。
タウニワイナリーと同様に、ブラージュワイナリーの設備も業界最先端でした。社員のワイン作りへのこだわりも印象的で、衛生管理状況も素晴らしかったです。 ブラージュワイナリーでは有名なカステルシリーズというワインが造られています。カステルシリーズのワインたちは一定温度(14℃)の地下室に保管されています。カステルシリーズの生産本数は限られており、なかなか手に入りません。また、カステルシリーズのワインを造れるための条件が毎年揃うわけではないので、毎年造られるとは限りません。カステルシリーズのワインは基本的に長期保存に向いており、ワインコレクターにとても好まれています。
ブラージュワイナリーの庭に桃とサワーチェリーの木がありましたので、食べさせてくれました。新鮮で、とても美味しかったです。
ブラージュワイナリーを訪問した後に、ジドヴェイ城に戻り、ランチを食べました。あまりにも美味しい料理で、食べることに夢中になってしまい、写真を撮り忘れてしまいました。
ランチを食べた後、ジドヴェイの研究室を訪問しました。ジドヴェイの研究室はお正月以外無休で、タルナーヴェ産地の地形、各畑の土壌、気候、葡萄の育ちや健康状態を分析し、膨大なデータベースを持っています。ここで行われている仕事の量は想像をはるかに超えます。長年のデータが管理されており、タルナーヴェ産地の特徴が徹底的に分析されています。研究室は収穫期間中も大活躍しています。毎日2回ほど全ての畑の葡萄の糖度、酸度やPHをはかり、ワインメーカーに伝えます。研究員は毎日2300ヘクタールの畑を歩き回ります。毎日歩く距離を考えるだけで目眩がしてしまいますが、ジドヴェイの方々が皆んなたくましく、笑顔で仕事に取り組んでいます。ワインメーカーはデータを見ながら、畑を訪問し葡萄の味見をします。葡萄の状態が一番良い時に収穫スタートの命令をだします。畑責任者、研究室責任者とワインメーカーが見事に連携をとっているからこそ素晴らしい葡萄が育てられます。上記以外の研究室の仕事は畑を病気や様々な虫から守ることも挙げられます。世の中の大きなワイナリーの場合は、畑が病気になってもならなくても、念のため農薬を巻くことが基本です。畑を細かく見守るより、農薬を巻いた方が経済的にも労働量的にも楽です。しかし、ジドヴェイのこだわりが強く、農薬は必要な時にしか使用しません。
研究室訪問後に別な畑を訪問しました。今回は車をこまめに止めてもらい、各品種の特徴を説明していただきました。特にフェテアスカ・レガーラ種の特徴とライン・リースリング種とイタリアン・リースリング種の違いが面白かったです。
ジドヴェイ社は生産性や利便性よりも良い葡萄を作ることに完全に力を入れており、考えられない努力をしています。例えば丘の斜面があまりにも急で、機械が入れなかったとしても、葡萄にとっての条件が良ければ、ほとんど手作業で斜面をテラス化し、葡萄を植えます。収穫も当然ながら手摘みになります。収穫時期に約千人の労働者が一度に働きます。少しでも良い葡萄を育つための大きな努力に感動します。
ルーマニアではワインをテイスティングし、香りや味わいの話をする時「ニワトコの花のニュアンスを持つ」という表現をよく使います。私もニワトコの花が咲く地域に育てられたため、ワインの香りの中にニワトコのニュアンスを頻繁にみつけることができます。しかし、日本ではニワトコが殆ど知られていません。四国を訪問した時にニワトコらしい花を見つけたことありますが、香りはルーマニアのニワトコと全く別なものでした。運良く、まだ散っていないニワトコの花を見つけ、皆んなでニワトコのとてもチャーミングな香りを楽しめました。
様々な葡萄品種の特徴を教えてくださった後、マリジネアン氏が素晴らしいサプライズを用意してくれました。「ピクニックタイム!」と言い、車のトランクから料理を出し始めました。出された料理は畑の仕事をしている方々が昼ごはんに食べる料理と同じでした:トマト、玉ねぎ、パン、チーズとハム。全てジドヴェイ社自家製でした。ここは100%の自給自足が可能な世界です。ジドヴェイ社は麦の畑、野菜の畑、羊、牛、豚や鳥のファームを所有し、畑で働いている人々の給与以外に食事も提供しています。365日間、毎日!
ピクニック直後にジドヴェイ城に戻り、ディナーが待っていました(笑)。帰りの途中で樹齢2年の若い葡萄畑を見ました。ワイン作りに適している葡萄を収穫できるまでは約4年間かかるそうです。いいワインを作ることは本当に大変です。長期的な戦略なしでは不可能ですね。
お城に戻り、シャワー浴びて、着替えたら、ディナーに呼ばれました。ピックニックでお腹いっぱいになっていましたが、お城の料理があまりにも美味しくていっぱい食べてしまいました。
デザートと一緒にジドヴェイの「ヴィンアルス」というブランデーがサーブされました。ヴィンアルスは地理的表示(IG)を持った特殊のブランデーで、ジドヴェイの高品質なワインの蒸留によって造られています。熟成は現地のオーク樽で行われるため、綺麗な琥珀色と上品なキャラメル香と程よい甘みを持ちます。食後に飲むと最高です。自家製アイスクリームとケーキとの相性も最高でした。
食事を済ましたら、お土産交換タイム!
とても忙しい1日でしたが、本当に良い勉強になりました。ありがとうございました!
5日目 / 6月21日 / ジドヴェイワイナリー
ジドヴェイ城で2回目の朝食。料理はシンプルで、殆ど自家製。チーズが本当に美味しかった。
朝食後ジドヴェイワイナリーへ向かいました。そこで待っていてくれたのはタルナーヴェ産地の神、イオアン・ブヤ氏。イオアン・ブヤ氏はジドヴェイのエノロゴ(ワインメーカー)であり、とても有名な方です。ワインと詩を愛する素敵な方で、1972年からこの地でワインを造っています。毎年必ず再会しますが、毎回緊張します。通常のワイナリーツアーの場合は若手の弟子が案内するのですが、日本のお客様の場合、ブヤ氏本人にご案内していただき、とても光栄でした。ブヤ氏は日本に一度も来たことないのですが、日本に関する知識はビックリするほど豊富でした。いつか日本に行きたいと言っていましたが、飛行機が苦手だそうです。
ジドヴェイワイナリーの業務流れを徹底的に説明してくれて、とても勉強になりました。ジドヴェイワイナリーはジドヴェイ社の最も大きなワイナリーです。この中で大きな倉庫、ボトリングラインや大きな地下室があります。ブヤ氏はテロワールが表現された、フレッシュなワインを目指しています。DOCのワインにはプレスしないフリーラン果汁のみを使用し、発酵の温度も厳しくコンピューターで制御されています。1000円のトラディショナルシリーズのフェテアスカ・アルバやフェテアスカ・レガーラもフリーランです! 美味しいワインの為に出来ることは何でもするというブヤ氏の強い意思を感じました。ジドヴェイの若手のエノロゴ(ブヤ氏の弟子たち)の教育のために、ドイツやイタリアの教授達と勉強会を開いたり、海外の産地に派遣させたりしています。また、毎年海外の有名なエノロゴからもアドバイスを受けたりします。 このワイナリーでジドヴェイのスパークリングワインも造られています。大手にもかかわらず、大量生産が可能な「シャルマ方式」や「アスティ方式」を一切使わず、「トラディショナル方式(瓶内二次発酵方式」を採択しています。トラディショナル方式の場合は手間も、時間もお金もかかりますが、ブヤ氏は「良いものを造るためには、汗水垂らして、努力するしかない。他の方法はない」と言います。トラディショナル方式の一本のスパークリングを造るには1年半ぐらいが必要だそうです。
ブヤ氏の話に夢中になり、シャッターチャンスを逃してしまいましたが、とても貴重な体験をさせていただきました。ワイナリーを出ると、庭に立派な自社トラックが待機していました。国内の輸送を全て自社トラックで行なっているそうです。トラック内の温度もきちんと管理されています。ワインに対する姿勢は本当に素晴らしい!
ジドヴェイワイナリー見学後、ジドヴェイ城に戻り、ジドヴェイ城の管理者であるイリナ・インツァ氏が案内してくれました。
ジドヴェイ城見学後、ジドヴェイの馬たちと楽しい時間を過ごすことができました。
乗馬をたっぷり楽しんだ後に、ジドヴェイの家畜小屋を見学。馬、ポニー、ロバ、牛、ヤギ、羊、ウサギ、七面鳥、雁、キジ、カモなどの様々な家畜がいて、ノアの箱舟の気分でした。その中印象的だったのは三匹の野生の仔鹿でした。どうして仔鹿がここにいるのかは不思議に思われるでしょう。実はジドヴェイの膨大な葡萄畑はオークの森に囲まれています。その森には鹿、イノシシ、熊や狼の野生動物が沢山います。
この自然保護区は国によって管理されていましたが、現在はジドヴェイ社が管理しています。ジドヴェイ社の管理下になってから、違法伐採や違法狩猟ができなくなり、野生動物にとって楽園のような原生林となりました。おかげで、野生動物の数も増え、本来の生態系を守ることが可能になりました。しかし、動物の世界でもドラマが起きたりします。鹿が仔鹿を産むとき病気で亡くなったり、お産の痛みに恐怖を感じて逃げたりします。 そして、生まれたばかりの仔鹿はその場に残されてしまいます。鹿はほとんどの場合葡萄畑で出産をするそうですが、お産時を発見しても人間は一切手を出さないことが社内で義務付けられており、鹿にとって大変よい環境が整っています。 母親が逃げて仔鹿だけが残されてしまった場合は、ジドヴェイの家畜小屋で保護し、成長を見守っているそうです。怪我をした鹿も同様です。そして、大人になると自然保護地区に離し野生に帰してあげています。活動は100%ボランティアで、国からの補助金が一切なく、全てジドヴェイの社員たちが自らやっていることです。 ジドヴェイの何人もの社員と幾度と会話したことありますが、例外なくみんなに自然的な優しさがあって、大地に対するリスペクトが感じられます。タルナーヴェ産地の人々のライフスタイルは決して豪華ではありませんが、謙虚さと素朴さがあり、自然と葡萄と共存し、美しい生き方をしています。ジドヴェイのワインには彼らの生き方と彼らの文化が含まれているような気がします。家畜小屋の見学は短く、三十分ほどで終わりましたが、私にとってはとても貴重な体験でした。
次に、ジドヴェイ城の3階にて、ジドヴェイワインの試飲会が開かれました。タルナーヴェ産地の神、イオアン・ブヤ氏も参加していただきました。ワインのことを直接ブヤ氏に訊くチャンスが中々ありませんので、とても貴重な体験でした。
トラディショナルシリーズ、クラシックシリーズ、日本でも大人気のグリゴレスクシリーズ、ネク・プルス・ウルトラシリーズ、テザウルシリーズ、ミステリウムシリーズとオーナーズ・チョイスシリーズのワイン(合計11種類)を試飲しました。
最後に、ジドヴェイのシェフ、ダニエラ・ドラグツ女史によるエレガントなディナーを楽しみました。ダニエラ・ドラグツ女史は長年イタリアでシェフとして活躍していましたが、2年前帰国し、ジドヴェイ城のシェフになりました。料理がエレガントで、ワインとのマリアージュも素晴らしかったです。
6日目 / 6月22日 / サンミクラウシュ村 / 葡萄の学校 / 民族衣装
日本を出てから6日目経ちましたが、ジドヴェイに完全に魅了されました。
朝食中に、マルジネアン氏が自家製のサワーチェリージャムを持ってきてくれました。濃厚で、美味しく頂きました。日本に輸入しているサワーチェリージャムはマルジネアン氏の手作りジャムに及びませんが、ご興味がある方はぜひ試してみてください。珍しくて、新鮮な味わいです。
朝食後、ダニエラ・ポペスク博士(ルーマニアのクルージュ市の葡萄栽培大学で博士コースを卒業した方で、知識のレベルが凄い)が迎えにきてくれて、サンミクラウシュ村の少し特別な畑に連れてくれました。葡萄の土壌や気候との関係について色々説明して頂き、とても勉強になりました。情報が多すぎて追いつくのが大変でした(笑)。 サンミクラウシュの畑にマリン・ククラ氏とラウレンツィウ・メドルツ氏に待機していただき、ポペスク博士と一緒に案内してくれました。
ジドヴェイの土壌分析力について既に話をしましたが、気象の分析能力のレベルも驚くほど高いです。ルーマニアを問わず、世の中のほとんどのワイナリーは国の気象情報局から気象関連データを入手しますが、ジドヴェイ社のローカルな分析力は気象情報局の分析力を上回るそうです。畑のあっちこっちにハイテクの気象アンテナや気象分析装置が置かれ、気温から葡萄の葉レベルでの湿度までのデータをリアルタイムで、モバイルデバイスやパソコンを通して観察できます。一年中のデータをストックし、タルナーヴェ産地全体の気候だけでなく、畑毎の気候を分析できます。長年のデータをストックすれば、畑毎の極めて細部までの特徴を分析することができます。日々の努力の積み重ねによって、次世代のために大変貴重なデーターベースが準備されています。この努力には頭が下がります。
先ほどサンミクラウシュ村の畑が特別だと書きましたが、実はここの畑がタルナーヴェ産地の中で一番優れている畑だと言われています。この畑から収穫した葡萄をジドヴェイのフラッグシップ、オーナースチョイスシリーズのアナとマリアというワインに使います。この畑が優れている秘密は地形、日当たりと空気の流れにあります。この特殊の地形が日本では『龍穴』として知られています。この龍穴地形のお陰で、自然アイスワインを造ることも可能です。
ワイン用の健全な葡萄畑を育てることは、想像をはるかに超える困難な仕事です。 葡萄の苗木を生産してから、葡萄を収穫できるまでに約4年間かかります。まず新しい葡萄の苗木を植え込む前に、場所(地形、土壌、気候)を徹底的に分析し、葡萄栽培に適しているかどうか決めます。場所が決まったら、苗木を植えますが、苗木が植えられる状態になるまでは長いプロセスが必要です。まずは苗木を作る必要があります。苗木を作ることも中々大変で、どんなワイナリーでもできることではありません。通常のワイナリーは国経営の研究施設や海外から苗木を仕入れていますが、ジドヴェイは自社の「葡萄学校」を設立し、葡萄の苗木を独自で生産しています。分かりやすく言えば、「葡萄学校」というのは葡萄の木が生まれ育つところです。苗木が十分な強さを持つまでは約2年間必要です。葡萄学校で苗木を2年間育った後、畑に植えます。
最初はジドヴェイの葡萄学校でジドヴェイに必要な葡萄の苗木のみ生産していましたが、高品質の苗木の生産に成功した為、他国内外のワイナリーからの需要が増加しました。現在はルーマニアの全産地向けに葡萄の苗木を生産しています。あの有名なコトナリ産地の葡萄の木もジドヴェイ生まれです。ジドヴェイ社は一度に10万本の苗木を生産する能力を持ち、様々な組み合わせを試しながら、常に最高の葡萄を探求しています。
葡萄学校を見学した後、ついでにトマトのビニールハウスも見学しました。朝食に食べたトマトもここで栽培されています。ジドヴェイのオーナーのこだわりで、昔からあるルーマニアの品種しか栽培されていないそうです。
次のストップはジドヴェイのパン屋さん。年中無休で、毎日約2500個の美味しいパンを焼きます。その材料は全て自社栽培の小麦粉です。毎日大量のパンを焼いている理由は二つあります。一つは、全ての社員に対して、給与以外に、毎日一人当たり一つのパンを与えます。また、タルナーヴェ産地にある全ての村の保育園や幼稚園に無料でパンを寄付します。これもジドヴェイ社の一つの社会貢献です。みんなで焼きたてパンを味見しましたが、感動的な美味しさでした。
焼きたてパンを食べた後に、また食事(昼食)に誘われました。太ることを一切気にせず、たっぷり食べました。毎回断ることのできない美味しさです。
ルーマニアでは毎年の6月24日にルーマニア民族衣装の日を祝います。ルーマニアの民族衣装は文化遺産として認められ、最近人気上昇中です。アメリカやカナダの有名なファッションデザイナーもルーマニア民族衣装をテーマにすることがよくあり、日本でも頻繁に見かけるようになりました。さて、ルーマニア民族衣装の日ということで、皆様にルーマニア民族衣装を着てもらい、写真撮影を行いました。そして、24日の日に、皆様がフェイスブックのプロフィール写真の民族衣装の姿をアップしてくれました。ありがとうございました!
ジドヴェイ城での最後の日でした。離れなければいけないことがかなり切なくて、寂しかったです。素晴らしい方々と一緒にたくさんの良い思い出を作れたことに感謝します。ジドヴェイはただのワイナリーではなく、ジドヴェイは一つの素晴らしい社会です。上手く自然と共存しながら、素晴らしいワインの文化を生み出せる素晴らしい「王国」です。
ジドヴェイからの帰路は大変心残りでしたが、ブカレストへ向かって楽しもうと決め、ドキドキしながら、ドゥミトルさんのマイクロバスで新たな冒険へ向かいました。
シビウ市に向かう途中にブラージュ市蜂蜜メーカーのアピダヴァ社を訪問しました。家族全員で蜂蜜の仕事に携わっているファミリー企業として1990年代にスタートしましたが、25年間かけてルーマニア最大の天然蜂蜜メーカーになりました。年間2200トンの純度100%天然蜂蜜を造っています。天然でこれだけの量を扱うのは、世界でもほとんど見受けられません。日本にも毎年500トンほどの蜂蜜を輸出しています。
養蜂家にとってはとても忙しい時期だったため、養蜂場まで行けなかったのですが、蜂蜜の瓶詰めセンターを見学させていただきました。案内して頂いたのは、創業者ヴィクトル・マテシュさんの娘、アリナさん。説明の中で「温度」という言葉がなんども強調されました。実は蜂蜜にビタミンやミネラル成分が豊富に含まれていますが、通常は瓶詰めの際、蜂蜜が温められるので、大切な成分が失われてしまいます。しかし、アピダヴァ社では温度管理には細心の注意が払われ、蜂蜜を温めすぎず(42~43℃が最高)、不純物を取り除く為の軽いフィルターも一度しかかけません。フィルターの直後に蜂蜜を冷却装置に通し、瓶詰めします。完璧な品質管理です。低温だとフィルターから瓶詰めまで通常より長い時間かかってしまいますが、最高の品質を保てます。見学後早速試食室に移動し、様々な種類を試食しました。種類を問わずクリアで上品な味わいです。 個人的に味わいがしっかりした菩提樹蜂蜜が好きです。アピダヴァ社の蜂蜜が日本でも手に入り、アカシアと菩提樹の蜂蜜が輸入・販売されています。特に力を入れてくれているのは『カーヴドテール』さんです。大阪の方と兵庫の方は直接店舗にてお買い求めいただけますが、カーヴドテールのオンラインショップでも販売されています。アカシア蜂蜜はこちら。菩提樹蜂蜜はこちら。 7日目 / 6月23日 / シビウ市
ブカレストからジドヴェイへ向かった時、トランファガラシャンルートを楽しむことできましたので、帰りは別なルートにしました。チョイスは様々ありましたが、今回はシビウ市とブラショヴ市を観光しながら、ゆっくり帰ることにしました。
朝から午後の3時ごろまでシビウ市を観光しました。シビウ市は1190年にドイツの入植者により作られた、トランシルヴァニア地方の代表的な街です。まずは「嘘の橋」を観光し、皆様に「嘘の橋の伝説」を話しました。その次、シビウ市の建築的特徴である「猫の目」の話をしました。写真の中で「猫の目」を見つけることできますか? 嘘の橋を渡った後、『猫の目』に見張られながら、街の要塞壁の外側を歩きました。
次のストップはドイツ系のエヴァンゲリック教会。運良く、中には私たちしかいなくて、教会の印象的なアーキテクチャをゆっくり堪能しました。また、ちょうどオルガンコンサートのための練習が行われていたので、素晴らしいオルガンの音楽もプライベートコンサートのように楽しむことができました。
教会塔にも登り、上からの町並みを楽しむことができました。
エヴァンゲリック教会の次にルーマニア正教会を観光しました。入場料は無料で素晴らしい建物です。エヴァンゲリック教会にはドイツ人らしい骨格があって、ビシッと造られている印象でしたが、正教会の場合は中々説明のできない神秘的かつミステリアスな面がありました。四角い形ではなくて、全てのデザインに丸みがあって、天井の大きな円は地球そのものを象徴します。ヨーロッパでありながら、ビザンチンの影響がたっぷり感じられ、アジアの文化に強い影響を受けていることが分かります。
正教会の後、ピアッツァ・マーレ(大きい広場)のテラスに座り、昼食をとりました。メニューにジドヴェイミステリウムロゼも載っていたので、早速注文し、写真撮影を行いました。その後、気持ちよく飲みました。
食後に買い物を楽しみました。買い物中にシビウのとってもクリーミーなアイスクリームを食べました。
チャーミングなアンティークショップを見つけ、買い物をしました。アンティークショップのオーナーさんは魅力のあふれる方で、とても興味深い会話をさせていただきました。
しばらくシビウの裏道を散歩してから、マイクロバスに戻り、ブラショヴ市へ向かって出発しました。
ブラショヴに到着後、ベッラ・ムージカホテルにチェックインしました。チェックイン後にお世話になったイオアナさんと別れました。イオアナさんはジドヴェイの輸出マネージャーで、とても大きな責任を負っています。ジドヴェイのワインをプロモーションするために全世界を飛び回って、世界の人々にジドヴェイの良さを伝えようとしています。今回はアメリカに行くことになったそうです。アメリカでもジドヴェイワインのプロモーション頑張って欲しいですね。仕事のできる、チャーミングで活発な方ですので、アメリカでも良い仕事をしてくれるでしょう。 2017年10月に、イオアナさんが日本にも来てくれます。お会いしたい方は是非、イオアナさんのセミナーやイベントに来てください。10月22日は兵庫県西宮北口のCave de Terre、10月23日は大阪市淡路町のCave de Terre、10月25日は岐阜県の坂本酒店、10月28日は愛知県豊橋市のアルテソロレスで会えます。魅力的なイオアナさんの話を聞けるチャンスは中々ありませんので、皆様是非会いに来てください。
8日目 / 6月24日 / ブラショヴ市
ルーマニア滞在最後の日。今日もたっぷり楽しむことを決め、ブラショヴ市の黒教会(外だけ)やウニーリ広場を観光しました。また、上からのブラショヴ市を見たくて、近くのタンパ山にケーブルカーで登りました。写真では見づらいのですが、天気が本当に良くて、地平線の近いところに私の出身の村(アリウシュド)も少し見えていました。
ブラショヴ市をゆっくり観光した後、マイクロバスに乗車し、ヘンリ・コアンダ空港に到着。空港で最後にみんなでルーマニアのビールを飲みました。飛行機に乗り、イスタンブール経由で日本に戻りました。
最後に
ジドヴェイの世界の素晴らしさをちゃんとした文書で皆様にお届けしたいのですが、私の日本語能力がまだまだ足りず、とても悔しいです。胸が痛いぐらい悔しいです。いくら頑張っても皆様に届けられる気持ちはわずか一部にすぎません。タルナーヴェは物語に出てくるような産地で、ジドヴェイ社も明るい王国のような会社(社会?)です。そして自分たちの人生を100%ワイン造りに捧げている方々のかっこよさを表すための言葉がありません。本当はもっと伝えたい、もっと見せたい気持ちでいっぱいです。今回の旅で現地の人々の情熱、謙虚さ、素朴さ、温かみと愛情を心に染みるほど感んじました。私も彼らみたいになりたいと思いました。彼らのような人間に出会うと自分がまだまだどれだけ小さいかに気がつきます。彼らの前で謹んで頭を下げるしかありません。こんなに素晴らしい体験をさせていただき、感謝の言葉もありません。
最後になりましたが、ジドヴェイの本社の外壁に書かれている詩を紹介したいと思います。ルーマニアの文学の中でワインが頻繁に出ますので、ワインに関する詩や歌も数え切れないほどあります。詩を翻訳することはとても難しいですが、私の限られた日本語で挑戦してみます。 The end
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